不育症を乗り越えて

今日はBさんのケースをお話していきましょう。
“不育症”を乗り越え、母となったBさんです。
初めて来院されたのは妊娠後に何度か初期流産されてからでした。
30代半ばで、お仕事をバリバリされていらっしゃる方です。


でもガチガチのキャリアウーマンというわけでもなく、
まるくて可愛らしい、とっても明るい方です。
お仕事柄なのか、もともとなのか、コミュニケーション能力の高い、
とてもステキな女性ですね。
不妊治療を始めてから急に体重が増え、
ぽっちゃりさんになりましたが、もともと小柄なので
コロコロッとした印象です。
体外受精では受精には特に問題はなく、
着床がうまくいかないようでした。
ただ、お仕事がとてもハードなので体力の消耗が激しく、
また最初にかかっていたクリニックで
かなりハイピッチで治療が進んだせいもあり、
お身体には相当負担がかかっている状態でした。
お仕事の都合で遅い時間でも注射に通える便利なクリニック。
キャリア組には魅力的です。
何度か化学流産を繰り返しながらも、
同じ治療がずっと繰り返されていたのです。
「次、行ってみよう」「次、行ってみよう」・・・
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東洋医学的にBさんのお身体は、腎臓の弱りに加えて、
かなりの”湿痰”がたまっている状態でした。
“湿痰”は、食べ過ぎ・飲み過ぎ、とくに脂っこいものや
甘いものに目がなく、運動もせず、という生活から
引き起こされる「病理産物」です。
いわば、身体にたまるゴミ(+o+)
この方、もともと食べることは好きですが、
そんなに大食いでもないはずなのに、こんなに太ってしまうのは
納得できないと訴えておられましたが、
原因は飲食だけではないと思われます。
ホルモン療法は人によって肥満につながることがあるのです。
彼女だけでなく、「治療を始めてから10キロ太った」
という方には何人もお会いしています。
もちろん、食習慣や運動不足も影響はしますが、
ホルモン剤の影響は否めません。
というわけで、この方の治療は湿痰対策が大きな柱になりました。
消化をつかさどる脾臓の働きを助け、
そのバックアップとしても必要で、妊娠維持に欠かせない
腎臓の力を補っていく治療を毎回続けました。
そして、クリニックの転院も検討していただき、
お身体のペースに合った治療を優先してくれるところに
転院していただきました。
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ただ、化学流産を繰り返されるため”不育症”を疑いました。
転院先のクリニックでも一通り検査されたところ
それについては「問題ない」と言われていたのです。
でも念のために、遠方ですが不育症専門のクリニックも紹介し、
しばらく待たされましたが(非常に混んでいます)、
詳しい検査を受けていただきました。
その結果、予測通り”不育症”と診断されたのです。
血液サラサラの注射とストレス回避が必要とのことでした。
以後、新しいクリニックでの体外受精の治療に加え、
同時に遠方まで不育症の治療にも通われるようになりました。
鍼灸にも欠かさず毎週通っていただき、
治療中は文字通り”爆睡”されて、
毎回「癒されました~♪」と帰っていかれました。
その間も全国に出張されたり、遅くまで残業されたり、
相当身体もハードだったと思いますし、
陽性反応の喜びも流産の不安にかき消される毎日でした。
気力はいっぱいなのですが、身体がついていけない感じです。
今は治療を優先する時期なので、
できるだけお仕事のスケジュールをゆったりしていただくよう
お願いもしましたし、家事なども無理しないよう
気を付けていただきました。
職場の理解も少しずつ得られるようになり、
パートナーの方が非常にまめな方だったので
ずいぶん助けられました。
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Bさんのすごいところは、ショックを引きずらないこと。
流産を何度繰り返しても、「仕方がない」と
一晩で吹っ切って、前を向いて歩きだされるのです。
もちろん辛い思いをされ、涙もたくさん流されたはずですが、
見事なほど気持ちの切り替えが上手な方でした。
「きっと赤ちゃんは来てくれる」という信念が強かったのです。
“不育症”というのは、気血の滞りが原因で起こります。
ですから、陽性反応が出たら、ひたすら気血の流れをよくし、
赤ちゃんにしっかり栄養が届くようにサポートしました。
陽性が出てからが勝負です。
そして、とうとうこれまで流産していた週数を越える日が来ました。
私も、毎週祈るような気持ちで治療していました。
仕事もできるだけセーブして体力を温存し、
そして赤ちゃんの生命力も強く、1週1週記録更新していきました。
不育症対策のために毎日何回か決まった時間に自己注射しなければ
ならないのですが、お腹やお尻など、注射の痕や内出血が
無数にでき、痛みも相当だったと思います。
会社でもその時間になるとトイレで注射を打ちながら、
壮絶なマタニティライフを送られました。
8か月までお仕事は続けられ、やっと産休に入られましたが、
逆子になってしまったのは想定内でしたし、
安静のために安産のための体力作りもできず、
妊娠中毒症の不安とも戦いながら、なんとか臨月まで
入院はすることなく、過ごしておられました。
鍼灸治療はこのあたりまで。
後はご自宅で出産準備をされてすごされました。
ただ、最後に出産がたいへんで、赤ちゃんは問題なかったのですが
ご本人がICUに入ったほどのお産でした。
帝王切開となり、出産後容体が悪くなって
最後の最後まで苦労されたのです。
やはり大事に大事を重ねたため、出産に必要な力が養われず
昔なら母子ともに命がなかったかもしれないお産でしたが、
最先端医療のおかげで大切な命を守ることができたのです。
こうして長年の、壮絶な不妊治療を経て生まれてきた赤ちゃん。
10回近い流産を乗り越えて胸に抱くことができた我が子を
どれほど愛おしく感じていらっしゃることでしょう。
命をかけて授かった赤ちゃんです。
産後、まだ入院中でフラフラのときにメールでお知らせと
赤ちゃんのお写真を送っていただきました。
Bさんに良く似た、まんまるい愛らしいお顔でした。
自分たち夫婦のもとにやってきてくれたことを
ひたすら感謝していると言われていました。
これまでの何年間を、分厚くなったカルテの重みとともに
感慨深く、ただじっと赤ちゃんの写真を見つめていました。
Bさんはまるで同志のような存在となっていたのです。
“不育症”の方の苦労と、とうとう出産して夢がかなう喜び、
そのどちらも共有させていただいたBさんでした。
決してめげなかった彼女の信念の強さを尊敬しています。
そして、妊娠中に胎児の検査は一切受けず、
どのような子が生まれても受けとめて育てる決意をされていました。
ご夫婦の強い思い、勇気に感動しました。
そんな両親を選んで来たベビちゃん、あなたは最高の両親を
選んだねって、今度会う時には伝えたいです。
Bさんはしばらく育児に専念された後、
またお仕事に復帰されるご予定です。
“不育症”を乗り越えて、母親業・家事・仕事と
ますます大忙しとなるでしょう。
Bさんの健康としあわせをずっとずっとお祈りしています。
ご縁があったらまたお会いしたいです。
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“不育症”に限らず、何度挑戦してもうまくいかない方は
たくさんいらっしゃいます。
そのなかで、Bさんはラッキーだったのかもしれません。
そんな難しいケースの方々を鍼灸だけでサポートするわけには
いきません。
専門のクリニックでの最先端の診療を軸としながら、
私たち鍼灸師はその方の全体をとらえながら、
全力でバックアップさせていただいています。
クリニックでは訊けないようなご質問にもお答えできますし、
さまざまな情報を提供しています。
そんなところが大きなメリットとなる不妊治療専門鍼灸院です。
それでは、次回はまた難しかったケースでいきましょう。
どうぞお楽しみに!!
なお、患者さまのプライバシーを守るため、
登場人物の身辺情報などは若干変更しております。
ご了承ください。

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